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ヒマラヤトレッキング17日目 標高5420mの峠越えの果てに得たもの(ゾンラ→チョラ・パス→タンナ)

2017/10/20  ゾンラ(Dzongla)4830m→チョラ・パス(Cho La Pass)5420m→タンナ(Thangnak)4700m
 
陽が出る前のこの土地の朝は、凍える様な寒さ。
冷水で顔を洗い、歯を磨く。
冷えた手で、フェイスクリームと日焼け止めクリームを塗る。
荷造りを済ますものの、かじかんだ手ではバックパックのチャックを閉めることができない。
 
ダイニングに避難するものの、こちらも寒く息は白い。
ホットティーを握りしめて手を温め、ゆっくりと身体に流し込む。
 
本日は、チョラ・パス(5420m)越えの日。
 
本日の峠越えの所要時間は7時間ほどだとクマルが言っていた。
私のペースなら10時間くらいかかりそうだなと、皆より早めの6時台に宿を出る。
 
標高5420mといえば、このトレッキング中2番目の標高。
それも荷物を持っての峠越えになるのだから、最も過酷な日になるだろう。
 
歩き始めると、ちょうど太陽が出てくるところだった。
陽の光に照らされる山並みの、なんと美しいことか...。
 

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まだ、過酷な道は現れない。
 

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しばらく歩いては振り返り、その美しさに勇気をもらう。
 

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これから急な山道だなと思う頃、オランダ人親子とクマル(ガイド)とポーター(名前不明)が私に追いつく。
クマルが、なんと私と荷物を交換してくれるという。
私の荷物は、多分15キロくらい。クマルの荷物は7キロだという。
 
今までも、「荷物を持ってあげるよ」と手を差し伸べてくれる人にたくさん出会った。
大変ありがたいなと、気持ちだけ受け取ってきた。
 
だけど、「交換」なら甘えてもいいのかな。。。
 
迷ったけど、これからの過酷な峠越えに備えてクマルに甘える事にした。
 
クマルは、荷物を交換すれば私も彼らのペースで一緒に登れると思ったのかもしれない。
だけど私は相変わらずのスローペースで、どんどん距離が離れていく。
 

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クマルのリュックは、私の身体にはフィットしなかった。
エストベルトを限界まで締めてもゆるいから、7キロの重みの全てを肩で受け止める事になる。
これはこれで辛い...。
ダウンジャケットとフリースを脱いで腰に巻き付け、その上からウエストベルトを締めてみた。
うん、これならいけそう。歩いているとズレてくるから、何度も調整が必要だけど。
 
それにしても、一体どこまで登り続けるんだろうな...。
人の流れを見ていると、どうやら右のほうに登っていくみたいだ。
 

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右へ登る道は、大岩の道だった。「道」と呼んでよいものかも謎だけど。
 

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いや~これは厳しいよ。。。
 
こういうの、下界でアドベンチャーとして体験するなら凄く面白いんだろうな。
こんな高地で、重い荷物を背負いながら体験しても、何も面白くないからね。
 
腕の力も使ってよじ登る。
登れずに戸惑う場面では、近くにいる男性トレッカーが私を引っ張り上げてくれる。
そんな何人もの紳士なトレッカーの力を借りながら、なんとか大岩ゾーンを抜ける。
 
昨日「美しい」と思った湖が、あんな遠くに。
 

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これからは、中岩・小岩ゾーンの様だ。
 

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岩ゾーンが終ると、対岸に巨大な雪の塊が見えてくる。
どうやら、私もあちらへ渡るようだ。
 

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雪道を抜けてね。
 

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ここを渡って向こう側に行かねばいけないのだけど...私の靴は冬用ではない。
絶対滑るよね~。滑って転んで頭打つよね~。
 

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...と思ったけど、全く滑らないサクサクの雪だった。
うん、そういえば雪にも色々あるよね。
 
ここからは、雪原ゾーンに入る。
茶色い土混じりの、あまり綺麗とは言えない「白い世界」。
どうせなら、辺り一面に広がる美しい「銀世界」の中を歩きたかったな~なんて、贅沢な事を考えてしまう。
 

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白い世界はどこまでも続いていて、果てがあるのかないのかわからない。
たくさんいたトレッカーも視界から消え、この白い世界に私はひとりきり。
クマルに預けた私の荷物には、「予備の水」と「万が一の為のアルミシート(包まって暖を取るもの)」が入っている。
今一人で遭難したり、日没までに辿り着かなかったら...どうなるんだろ。
 
そんな不安に駆られながら、ひたすら前へ進んでいく。
 
すると対面から現れたネパール人に、「日本人か?」と聞かれる。
「一人か」と聞かれ、「一人だ」と答える。
こういうコミュニケーションは、いつもの事。
 
しかし彼が、「ネパリのバゲッヂがうんたらかんたら」と言い出す。
「ネパール人と荷物を交換した。これはネパール人の荷物だ」と説明してみる。
そうしたら、「そうかそうか」とミネラルウォーターをくれた。
これは...恐らくクマルが彼に託したんだ。
「一人で歩いている日本人に渡してくれ」と。
思いがけず、私の予備の水が戻ってきた。
 
彼が「あそこがトップだよ」と指さした先に、人影が見えた。
まだまだ遠そうだけど...それでも皆のはしゃぎ声が聞こえるくらいの距離。
 

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近づいてみると、「これはどうやって登るのか」と思うような場所だった。
山頂から、見知らぬ人に手招きをされるのだけど...いや、だからどうやって。笑
 
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よく見てみると、雪原の終わりの壁を滑り降り、この岩壁を左側から登っていくようだ。
その様子をのんきに写真に収めようと思っていたら、なんと手招きの彼が私を迎えに来てしまった。
 
そして、私の(正確にはクマルの)リュックを代わりに持ってくれるという。
いやいや、申し訳ないです...と思ったのだけど、なんとなく彼を頼ってしまった。
 
「ここを10分ほど登ったら頂上だよ」と言われる。
 
10分...彼はせっかく頂上まで行ったのに、私の為にもう一度急な壁を10分間も登らなければならない。
意味がわかない。友達でもない、名前も知らない関係なのに。
 
頂上に着き、彼はクマルのバッグを私に戻してさらっと去っていった。
 
いやいや、そこは恩着せがましくするところでしょう...?
 
彼を含め、これまでの道のりで出会った様々な「親切」がフラッシュバックしてきて、涙が出そうになる。
こんなところで泣いたら恥ずかしいよ。一人ぼっちのジャパニーズ女が。
 
それなのに、峠の向こう側の景色が美しすぎて、涙があふれてしまった。
 

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これくらいの景色は今まで何度も見てきたし、「美しさ」で言えば一昨日に見たエベレストに勝るものはない。
 
だけど、今の私には刺激が強すぎる。
ひと気のない岩陰で、ひとりシクシクと泣いてしまう。
 
私は今日、たくさんの人の親切に支えられながらここまで来た。
自分ひとりの力では、絶対に辿り着かなかっただろうと思う。
 
「誰にも頼らず、ひとりの力で乗り越える事」
 
それが強さだと思っていた。
 
ディネスと別れて、一人旅が再開された。
この先の旅路は、ひとりで乗り越えよう。
それでこそ、「達成感」が得られるんじゃないか。
 
ディネスと別れて「前向きさ」を取り戻した私は、「強い人」になる事に躍起になっていた。
 
だけど、「強さ」の意味をはき違えていたのかもしれない。
 
差し伸べられたその手を取る事は、「弱い」事ではないのかもしれない。
その事に対して「感謝」の気持ちさえ忘れなければ。
 
「強さ」ってなんだろう。
 
強いだけではだめで、「優しさ」も兼ね備えた人になる必要があるんじゃないかな。
 
こんな標高で泣いたから、頭がとても痛い。
 
...いや、その前に!右目のコンタクトレンズが消えた!
コンタクトレンズしながら泣いたらダメだよ~。
目の奥に異物感を感じるから、もしかしたら目のどこかに潜んでいるかもしれない。
だけどこうなったら、数時間は戻ってこない。
替えのレンズはクマルが持っている。
眼鏡はあるけど、サングラスを外すのは今後の目の健康の為に避けたい。
 
突然のトラブルで涙なんかふっとんだ私は、とりあえずこの状況で下山してみる事にした。
 
下山は、岩場の間を行く道。
 
私は、目の病気で常人より少しばかり「視野」が狭い。
そして裸眼の「視力」は、かなり低い。
 
「視野が狭い左目」と「視力がほぼない状態の右目」。
 
無理だよね。歩き出してすぐに豪快に転んでしまう。
だって、岩との距離間がまるでつかめないんだもの。
 
転んだ私を助け上げてくれたシェルパのおじちゃんが、一番下まで荷物を持ってくれるという。
たぶん...昨日までの私なら気持ちだけ受け取って断っていた。
だけど、たった今山頂で心変わりしたばかりの私は、彼の親切を素直に受け取る事にした。
 
いつも使っている「Thank you」に「very much」を付け足す事くらいでしか感謝の気持ちを表せない私の英語力が悲しい。
一体どうしたら、この気持ちが伝わるだろうか。
 
おじちゃんは、私の視界にトラブルが発生している事など知る由もないだろう。
ただただ、荷物が重くて大変そうなジャパニーズを手伝ってくれているだけなのだ。
彼だって、リュックサックと大きなボストンバッグを持っているというのに。
 
もうやめてー。涙腺緩んでいるんだからー。
 
荷物が軽くなったって早く歩けるはずもない私の歩調を咎める事もなく、
途中で適度に休憩を取りつつ、私を励ましながら下っていくおじちゃん。
 
どれくらいの時間が経ったかわからない。
一番下に着いた時、「タンナはあっちだよ」と指さして、さらっと私と別れようとする。
 
だからさ~、そこは見返りを求めるところでしょう...?
 
少し逡巡した末、シェルパのおじちゃんに500ルピー(500円)を渡すことにした。
気持ちは1000ルピー(1000円)くらい渡したかったのだけど、それは彼が恐縮するかなと思って。
 
そのわずか500ルピーさえも、遠慮して受け取らないおじちゃん。
握手をする素振りを見せて(いや、実際にしたのだけど)、その手に渡す。
おじちゃんはハニカミながら、「ありがとう」と。
 
真っすぐな道を、ひたすら歩く。
 

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私は、見ず知らずの人に対して、無償で力を貸すことがあるだろうか。
いや、私は絶対にそんな人間ではない。
 
今までに受けた「恩」を、どう返したらいいのか考えてみる。
だけど、私にできる事は何もないように思える。
私は無力なのだと、思い知る。
「力」がなければ、人は救えない。
 
そんな事を悶々と考えながら歩いていると、追いついて来たトレッカーに頭を撫ぜられる。
何故...??笑
 
その彼の後ろに続いて、シェルパのおじちゃんがいた。
 
おじちゃん、彼のポーターだったんだね。
既に誰かに雇われているポーターなのに、更に私に手を貸してくれたんだね。
 
本当に、ありがとう。
 

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丘の上に、チョラパス行きの標識が建っていた。
私は、はるばるあの峠を越えて来たのだ。
 

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私の行く先は、おそらくとても美しいのだろうと思う。
今の視界ではその一部しか捉える事ができないのが、とても残念。
 

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永遠と続く下りの道が、いつしか岩場になっていた。
 
私の心が、次第に曇っていく。
「重い」「見えない」「一体いつ着くの」...。
 
たぶん、「見えない」が一番辛い。
何度も足を取られて転ぶ。
 
見えない、見えない、見えない...と、どこぞのムスカの様に呟きながら歩く。
 
そして、はっと我に返る。
 
私は、この峠越えで一体何を学んだのか。
これじゃあ何も成長できていない。
 
「これしか見えない」と思うのか、「まだこれだけ見える」と思うのかは自分次第。
 
そう思った途端、私の視界に可愛らしい鳥の姿が入ってくる。
ほらね。見ようと思えば、あんなに小さい鳥だって発見する事ができたよ。
 

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鳥撮りに夢中になっていると、前方からクマルとポーターがやってきた。
 
なんと迎えに来てくれたのだ...!
 
他にトレッカーの姿も地元民の姿も見えなくて心細かったところ。
それに、どうやってクマルと合流したらいいのかもわからず不安だった。
 
クマルが、あれはヒマラヤの鳥だよと教えてくれた。
 
私が背負っていた荷物をクマルに返すと、中からパンを取り出して私にくれる。
「お腹、すいているでしょう」と。
クマルはすいていないのかと聞いたら、タンナでランチを食べたから大丈夫だと。
遠慮なく、残さず食べた。
 
さて行こうかと、クマルは自分の荷物を背負う。
ポーターの彼は、私のサブバックを持ってくれようとする。
いやいやいや!これは流石に、とても軽いものだから大丈夫...!
でもありがとう。
 
タンナへは、ここから40分ほどだという。
40分もかけて、私を迎えにきてくれたんだね。
 
15:20頃、タンナへ到着。
ほぼ休みなく、8時間半ほど歩いていた様だ。
 
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チョラ・パスは、ゴーキョへ向かうために仕方なく越えることにした峠。
できれば越えたくなかったし、そうまでしてゴーキョに行かなくてもいいんじゃないかとすら思っていた。
 
だけどゴーキョへ行かずして、私はこの峠で大切なものを得たような気がする。
その「大切なもの」が何なのかは、うまく言葉では表現できないのだけど。
 
今日の日に感じた事を、絶対に忘れないようにしよう。